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小1の子をもつ物書きの父が見届けた1カ月「一斉休校」の暴挙【保護者は「ご聖断」を待つ以外にない日本の危機】

根拠と基準と「なんとなく」民主主義

「子供の命より、お金」、エコノミック・アニマルという言葉は、いまだ死語ではなかったのだ。

■根拠と基準と「なんとなく」民主主義

 仕事をしながら子供の相手をするのは、実にストレスフルなことである。「パソコン触るな」「お前が踏んでる紙はパパの資料だ」「クレヨンしんちゃんの真似はやめなさい」などと子供を諫めつつドリルをやらせ、焼きそばを作り、カレーを作る。無謀である。

 休校開始以降、学校からは「各家庭で1年間の復習をしてください」という同報メールが1本きただけ。家庭に学校の機能を代替しろというのであれば、そもそも学校とは何なのだろう? 1年の締めくくりの時期に「学校にしかできないこと」を子供たちに授けられなかったことを、地団駄踏んで悔しがる教師は存在しないのだろうか?

 3月20日(金曜日)、子供をようやく寝かしつけて、ドイツのメルケル首相の演説の翻訳を読んだ。民主主義に対する認識の深さと、国民に対する真摯な姿勢に打たれた。

 メルケル首相は感染症対策を決定した過程と根拠を丁寧に説明すると同時に、旅行や移動の自由を制限せざるを得ないことがいかに苦渋に満ちた決断であったかを切々と語っていた。そして医療従事者だけでなく、物流の最前線に立つスーパーのレジ係にも敬意を表していた。東独出身の首相は、民主、平等、自由が持つ価値の重さと輝きを、身にしみて体験してきたのだろう。

 3月24日(火曜日)、文科省は学校再開のガイドラインを提示した。私は新規の感染者数が日々増加している中で、なぜ学校再開なのかがまったく理解できなかった。この危機的状況下で再開できるというのなら、卒業式や終業式を取りやめてまでこの1か月間休校にしてきた理由は、いったい何だというのだろうか?

 案の定というべきか、感染者数の急増を受けて、私の住む地域では学校再開は沙汰止みになった。女子高生風に言えば、いま再開するのは「なんとなく、やばくね」といったところだろう。台湾のように感染者が何人出たら学級閉鎖、何人出たら学校閉鎖といった明確な基準を設けないから、物事はすべて「なんとなく」決まり、「なんとなく」見送られていく。

 非常事態宣言にしても、宣言を出す基準が曖昧だから、複数の専門家が「いま出せばなんとかなる」と言っているのに(4月4日現在)出ない、出さない。出す出さないの判断は、政権の恣意に委ねられている。

 こうした状況が長く続くと、人々は実質的な意思決定者への依存を深めていくことになる。

 なぜなら、決定の根拠も基準も明示されない以上、不合理や矛盾を突いて決定内容の変更や中止を迫ることができないからだ。われわれは、嘆願や請願や懇願以外に、意思決定者を翻意させる手段を持たない。言い換えれば、理屈が通じないのである。

 わが宰相は4月1日(水曜日)、全世帯に数百億円かけて布マスクを2枚ずつ配布するという珍奇な、あるいはチンケな対策をまたしても唐突に打ち出した。一説によれば、側近から「マスクを配れば国民の不安なんてパッと解消しますよ」と耳打ちされたそうである。

 私も含め、多くの人々がSNSを舞台に首相の“英断”を罵倒しまくっているが、恐ろしいのは、罵倒している当の相手に頭を下げてお願いをしなくては、対策の変更や中止ができないという倒錯した状況に陥っていることである。

 いくら「布マスクなんて必要ない」と叫んでも、アベノマスクは送られてくるだろう。もはや、論理的な説得によって発送を止められる人はいない。罵倒しながら、この事態をなんとか収拾してほしいとお願いするしかなくなっているのだ。これが、日本の危機の本質だ。

 小学校2年生になる息子は、4月6日(月曜日)、たった1日だけ登校して、再び先の見えない休校に突入する。休校の根拠と基準が曖昧である以上、学校再開も「なんとなく」決まるのであろう。保護者は意思決定者の「ご聖断」をただただ待つ以外にない。

 これを、民主主義と呼ぶ人はいないだろう。

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山田 清機

やまだ せいき

1963年、富山県生まれ。1987年、早稲田大学政治経済学部卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『卵でピカソを買った男』(実業之日本社)、『青春支援企業』(プレジデント社)、『東京タクシードライバー』『東京湾岸畸人伝』(ともに朝日新聞出版)など。

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